箱だけなのに

ぼくが選んだオルゴールは、みんなに笑われました。
なんだ、そのへんなちゃいろい、安っぽい箱は。とみんなが指をさしました。

でもぼくはそのオルゴールが良かったのです。
ほかのとくらべて、断然音色が良いのです。
見た目はどうでもいいんだ、この音色がぼくのおきにいりなんだから。
そして、オルゴールの曲はぼくの大好きな曲。

何年もの間、ぼくはオルゴールと一緒にいました。
悲しいときも、うれしいときも、この曲と音色がぼくをなぐさめ・喜ばせてくれました。

ある日一番の悲しみが訪れたのです。
オルゴールはぱったりと、音を鳴らさなくなってしまったのです。
一生懸命ねじを巻いても空回り。
オルゴールやさんに持っていっても、もう直らないといわれてしまったのです。

ぼく自信も、決して好きではなかったこの箱の見た目。
今では、好きだった音色もなくなり箱だけが残っていて
みんなに捨てたほうがいいといわれるのですが
たとえ、音色もぼくのことも忘れて 宙に向かってぼんやり口をあけているだけのふるぼけた箱でも、

今までの思い出が箱に詰まっている気がして、捨ててしまうことは出来ないんだ。

むかし愛した大事なものを、なくしてしまったただの器でも。

end