ある都会の夜、昼は翅を閉じて眠っていた小さい灰色の蛾が目を覚ましました。 少し寝坊をしたので、あわてて宙に飛び出しました。 蛾に生まれたからには、光に向かって飛び続けなくてはなりません。 たとえぶつかって翅をいためても、光にまっすぐむかっていくのです。 その蛾も、いつものように光に向かって飛んでいきました。 でも、光にぶつかった瞬間「しまった!」と思いました。 それはコンビニの入り口付近にある、あの青白い蛍光灯だったのです。 バチッと嫌な音を立てて、蛾が動かなくなるまではほんの一瞬だったのですが その間に蛾は思い出しました。 前に蛾に生まれたときも、その前に蛾だったときも、 同じようにこの青白い光に殺されたことを。 そして、いつも間際に(今度蛾に生まれたら、もう青白い光に近づかないようにしよう)と 悔やんでいることも思い出しました。 またやってしまった。後悔してももう遅いのですが、蛾は来世に誓いを立てます。 今度こそ、この青白い光には近づかないようにしよう。 蛾が都会に生まれてしまったら、この魅力的な光に近づかずにいられないのです。 悪いことだと、身を滅ぼすことだとわかっていても、 光に近づく本能があの青白さに憧れを抱かせるのです。 光はいつも、自分の形をはっきりみんなに示してくれる暖かいものだと、 蛾はずっと、ずっと昔から信じてきているからです。 end |