「ぼくたち夫婦に、なかなか子どもができないんです」 そう言って二人がはじめて病院を訪れたのは、2年前でした。 いろいろ検査した結果、二人とも生殖細胞を作れないことが判明しました。 「そんな」 「じゃぁ、ぼくたちには子どもはできないんですか」 二人が落胆した様子で先生に問うと、先生は静かに語りました。 「最近、君たちとおなじ症状の人が増えている。この現象は19世紀ごろから頻発するようになった」 「そして、この23世紀の今でも、そういう人に子どもを授けることはできないでいる」 23世紀は深刻な少子化時代でした。 ヒトは長生きできるようにはなったので、この先生も147歳です。まだまだ現役、見た目も50代です。 長生きできても、子どもはやっぱり40歳までに産んだほうが良いので、 若い夫婦がこうして治療・検査に来るのです。 6年前にようやく、第2次成長期の頃に学校で生殖細胞の有無を検査することが法律で決まりました。 「君たちは、テロメアをしってるかね」 先生が突然、二人に質問を投げかけました。 「はい、染色体のしっぽですよね。細胞は普通、分裂するたびにテロメアが短くなっていきます。それが老化と関係しています」 「小学校でならいました」 23世紀には短くなったテロメアの修復がある程度可能なので、細胞が長生きしているのです。 これで人類は、かなり長生きを出来るようになったわけです。 ヒトは、テロメアという細胞のしっぽを伸ばすことで長生きが出来るようになったのですが、 最近新しいしっぽがみつかったのです。 「それが、"アダムとイヴのしっぽ"だ」 ヒトがあたらしくうまれてくるたび、アダムとイヴのしっぽはだんだん短くなっていました。 細胞の分裂と同じです。 もう、ヒトは分裂ができないのです。ヒト全体が老衰してしまっています。 23世紀の科学では、その「しっぽ」がどこにあるのかすらわかりません。 31世紀が終わろうとしています。 一人の老人が、震える手で機械を操作していました。 「これが、700年前に残された"最後の生殖細胞"の本当に最後の細胞だ」 もうこの世界には、30人ほどの人間しかいません。 人工授精で大事に大事に授かってきた子どもも、この子で最後になります。 みんなの見守る中、子どもがケースから取り出されます。 こんにちは、「一番短いしっぽのあかちゃん」。 end いつもフィクションですが、今回はよりフィクションです。
全ての部分で、きちんと年代を計算したり裏づけを取ったわけではありません。 |