鳥は生まれる前に、道をどちらか選びます。 人に飼われて一生過ごす道と、自分の翼で飛ぶ道。 ピップルも、鳥として生まれる前にどちらの道をえらぶか、決めなくてはなりませんでした。 神様が空っぽの卵を用意しています。 綺麗なお母さんがもってる、鳥かごの中の卵に入るかい? やさしいお母さんがもっている、小枝の巣の中の卵に入るかい? 神様は、ピップルに「じっくりかんがえなさい」と言い残して、どこかへ行ってしまいました。 卵はたくさんあまっています。 誰も入らなかった卵は、そのうちニワトリさんの卵として産み落とされ、人間の食卓にのぼります。 ピップルはとりあえず、卵のお部屋から外に出てみました。 空を見上げると、先輩たちが気持ちよさそうに飛び回っています。 その瞬間、「翼で飛ぶ道」を選びました。 気が変わらないうちに卵のお部屋に戻ろうとしたのですが、 途中で幸せそうな鳥かごにも出会いました。 やさしい人間に愛され、おいしいえさを食べて、おもちゃで遊んでいます。 意識の中で鳥かごの鳥に聞きます。 「しあわせかい?」「しあわせだよ」 「翼で飛んでる鳥と、君と、どっちがしあわせ?」「翼で空を飛んだことなんて無いから、わかんないよ」 相手のことはわからないと言います。 でも、自分は幸せだと言います。 ピップルには、鳥かごの鳥がみんな幸せそうなのが少し心に残りました。 幸せなら、その道もいいかもしれない。そこに、この道を選んだことを後悔している鳥は1羽もいませんでした。 「うぅ、うぅ」 急に聞こえた苦しそうな声に、ピップルはおどろきました。 声のする方向には、うずくまった「翼で飛ぶ鳥」がいました。 「しあわせかい?」 翼で飛ぶ鳥に、ピップルが話し掛けます。 「しあわせなもんか!俺は不幸だ。翼で飛びたいと、こっちの道を選んだのに… 飛び立って数日で、俺の羽は折れて、もう飛べなくなってしまった。これじゃぁ、命だってあと少しだ」 翼で飛ぶ鳥は大声で鳴き、泣いていました。 悲痛な叫び声を、ピップルは心の奥に焼き付けるしかありませんでした。 「ピップル、道はきまったかな。」 神様が声をかけました。 ピップルは翼で飛ぶ道を選びました。 小枝の巣にある卵に入り込みました。 なんで幸せになれる道を選ばなかったかって? 答えは複雑です。 ピップルは、全員が幸せな場所では、自分は幸せになれないと気がついたのです。 翼の折れた鳥の不幸を見ないと、自分が幸せだということがわからないと知ったのです。 あの鳥は翼を折った。ぼくのは折れていない。幸せだな。幸せだよね。 不幸を見た後の幸福は、何よりも幸福に感じるのです。 ピップルは翼で飛ぶ鳥になります。 ぼくの翼だけは折れたりなんかしない、と、根拠の無い自信だけが彼の背中を押します。 end |