球体 私は丸いものが好きだ。 ドラえもんも丸いから好きなのかもしれない。 でも、基本は出っ張りもミゾも何もない球体が好きだ。 小学生のころ、いつも球体を持ち歩いていた。 最初は大き目のビー球だった。 しかし、修行(階段をころげ落とすこと)をさせるとすぐ傷がついてしまう。 あるとき、木製の球体を手に入れたので、それからは木製の球体で修行に励んだ。 学校の友達も一緒になって修行に励んでくれた。 なぜか彼女の球体には棒が生えていた。 その邪魔な棒のせいで、階段をうまく転げ落ちることが出来ないのがじれったくかんじた。 学校の休み時間ともなると、友達と球体をもって教室の外に繰り出し、 トイレの個室にこもって球体をみせあいっこしていた。 そのうち、私の球体がトイレに落ちてしまう(汲み取り式だった)という悲劇が起こり、 しばらく球体から離れた生活をしていた。 だが、たいして時間もたたないうちに再び球体をもち始めてしまった。 オレンジ色で、ソフトボールより少し大きめのスポンジである。 今度は学校に連れて行っても、トイレには連れて行かない。 階段を落とす修行もさせない。 学校から家まで帰る間に話し相手になってもらうぐらいの、少し距離をおいた付き合いだった。 時がたって、いつのまにかその球体に名前がついていた。 名前がついたとたんに可愛さがまし、意味もなく名を連呼してしまう。 私は観光地へ出かけたときもスポンジの球体をつれて行った。 家族と一緒に、球体も記念写真に写った。 転がしてしまい、追いかける姿も写真におさめられた。 少しずつ、スポンジが欠けてきても…私と球体はいつも一緒だった。 スポンジがくたくたになってきた。さすがに、もう長くないことが感じ取れた。 私は慌てて新しいスポンジを探す。 いったいこのスポンジは、何で手に入れたのか。 お店を探しても、台所用品を見ても、紐がついていたり穴があいていたりと微妙に球体ではない。 ぼろぼろの、すでに球体ともいえないスポンジを前に私はひざをついた。 とても、球体のない生活は考えられないのに、代替品は見つからない。 途方にくれていたのだ。 そんなある日、何処からか子供用室内ゴルフセット(おもちゃ)をもらった。 ゴルフセットには、ピンクのピンポン球大のスポンジの玉が2つついていたのだ! 今度は手にして早速名前をつけた。 まよわず、ピンクの双子はオレンジの子どもという設定が決まった。 これでオレンジの役目が終わって、めでたし…かと思いきや、それからしばらくの間はオレンジとピンク、3つの球体を持ち歩くようになったのだ。 このように、私は今までに何度となく相棒に球体を選んでいる。 スーパーボールであったり、軟球であったり、ツルンとした丸いものが常にそばにいる。 球体には表も裏もない。内にだけ、何かを詰め込んでいたりする。不思議な存在で、可愛くもあるのだ。 大人になってから、オレンジのスポンジは「室内用野球セット」のボールであったことが判明した。 あの、バットがずんぐりむっくりなヤツ。 |