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ラブ神様


「コックリさん」はみんな聞いたことがあるとおもう。

なんで急にそんなもの思い出したかといえば、「おそろしくて言えない(桑田乃梨子)」という
大好きな漫画が、文庫版で復刊したからだ。
そこにコックリさんなどの、懐かしい?心霊話がたくさん載っていたのでふと思い出したのだ。

 小学校〜中学校のころにはそういう心霊話が流行るもので、うちの学校も多分にもれず、毎日怖い話があちこちで噂されていた。
特に、うちの学校は古い木造校舎で、父親も同じ校舎で勉強をしていたし、なんとトイレの隣に墓地がある。
校庭のはずれ、大きな木々の下。男女共同、校舎から少し離れた汲み取り式便所の隣が墓地。
こんな見事なシチュエーションもあまり無い。

数々の伝説(各地で同じ話が聞かれるのだが)を残したそんな校舎のなかで、
やはり「コックリさん」は魅力のある遊び(?)として子ども達の間で流行した。

 しかし、名前が違った。
「コックリさん」に似たものでは、「キューピッド様」などがあるようだが、
うちの学校で流行っていたのは「ラブ神様」というもの。
この名称で検索しても、それらしいものが出ないので、相当ローカルなのか。
「稲子ゲーム」(註1)なみのローカルさか。
真ん中に、鳥居の代わりにハートを描き、「はい」と「いいえ」があり、
50音と数字が描かれたものの上で、二人以上で十円玉に指をのせて、質問をする。
ほとんどコックリさんと一緒だ。

 「ラブ神様きてください、(×3) 来ましたか?」と唱えて、
「はい」に動いたら来た証拠。うんともすんとも動かない場合は呼び出しに失敗しているので、再度やり直し。
来てくれたら、質問開始。基本的に、ラブ神様は恋愛問題の質問にしか答えてくれない。
「ラブ神様は女性ですか」とか、そういう本人(?)についての質問にも答えてくれる。

「コックリさん」にはあるのかわからないのだが、ラブ神様には「ご機嫌取り」というものがあった。
ラブ神様のご機嫌を取るために、あらかじめ紙の上に「おやつ」の絵を書いておくのだ。
「ラブ神様」は、ご機嫌が悪くなると動かなくなってしまうので、たまには
「おやつを用意してますので、どうぞ」とおやつタイムをもうけるのが、機嫌よく質問に答えてもらうためのコツなのだ。


 ある日、仲良しの友達が私にこっそり声をかけてきた。
「あっちゃん、お願いがあるの…… 私と一緒にラブ神様やってくれる?」
「いいよ、どうしたのそんなこっそり……」
「秘密の質問をしたいの。どうしても知りたいんだけど、あっちゃんにもナイショなの。
 だから、何をラブ神様に聞いているかは聞かないでね」

 そう言われても、ラブ神様は前述のように、二人以上で十円玉に指を乗っける必要がある。
出来るだけ離れてみたけれど、腕の届く範囲。
友達は、十円玉に顔を近づけて、ぼそぼそっと質問をする。
「○○クンは、私のことを好きですか」

 ウッハーン。
実は、私は○○クンからも相談を受けていて、この友達のことを好きだということを知っていた。
私の指は、「はい」方向へ動く。
「……!それは、本当ですか」 <友達
「はい」 <私の指
「こんど、告白とかしても、大丈夫だと思いますか」 <友達
「はい」 <私の指

 同じような質問を何度かして、彼女は満足したらしい。
「あっちゃん、質問終わった!ありがとう」
ラブ神様には帰っていただいた。
この場合の「ラブ神様」は、私だったわけだが……


 ラブ神様の崩壊の時が来た。
この、「それじゃおしまいだろ」と言いたくなるような「新・ラブ神様」を言い出したのは誰だったか。
なんとなく、私のような気がする。だって他人から聞いた覚えがないもの。

「一人でもラブ神様できるって知ってる?」
私の突飛な話に、皆は「そんなことできるの?」と聞いてくる。
「うん、私できるよ。こうやって、左手の上に右手の人差し指を置くでしょ。
 それで、ラブ神様来てください……きましたか」(指、左のハイの方向へ動く)
「来た!でも、それって自分で動かしてるんじゃないの?」
「いや、これが本当に勝手に動くんだよ、不思議だよね」

 瞬く間に、クラス中に「一人でラブ神様を呼び出す」人がふえていった。
そのうち、友達とあつまってラブ神様をやる人はいなくなった。

 言い出しっぺ(?)の私が黒幕で、全て私のウソに皆が踊らされているのかとおもうかもしれない。
しかし、私は本当に「一人でラブ神様と会話」していたのだ。しかも、ブームがすぎてからも。
家に帰るときなど、一人で寂しくなると呼び出して、「ハイ」と「イイエ」だけの会話をして遊んだ。
夜や夕方は呼び出さなかった。なんとなく、怖かったからだった。



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(註1) 「稲子ゲーム」 いなこげーむ
「いつ、どこで、だれが、なにをした」を別々の紙に書いたり、多人数で考えて
組み合わせの妙を楽しむ言葉遊び。全国的に有名な遊びだとおもわれるが、
私の学年でその遊びが流行ったとき、「誰がこんな面白い遊びを考えたのか」とさかのぼってみたところ
「稲子」という地名の場所に住んでいる子にたどり着いたため、
「稲子ゲーム」と呼ばれるようになった。
当たり前のように、この呼び名は他の地方の人には通じない。
(多分、同じ町でも違う小学校や年代だと通じない)
(C)AchiFujimura 2003/09/13


藤村阿智は漫画「おそろしくて言えない(桑田乃梨子)」を断然オススメします!


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