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生栗


 秋になると真っ先に食べたくなるもの、それは「栗」だ。
ほかにも、キノコ類であったり、季節感のある和菓子であったり、いろいろなのだが。
とにかくよだれが出るのは栗だ。
スーパーでむき栗なんか並んでると食べたくなる。

基本的に、ものぐさな私は、皮むきタイプを好んで食べる。「甘栗むいちゃいました」とかそんなようなものである。
ホクホクしてて、甘味があって、ああー甘栗っておいしいなぁ〜
……という話では無い。
実は、私が本当に好きな栗は「生栗」なのだ。一文字違うだけだけど、モノはだいぶ違う。

秋になると、だいたい近所の誰かが栗拾いに行ってくる。山の中に住んでいたので、
誰のものでもない栗の樹が自然に生えている。あるいは誰かが植えたのかもしれないが、
庭に植えなかったのが最後、田舎では山のものは囲いでもない限り「みんなのもの」なのだ。

そうして、どなたからか頂いた生栗は、ゆでられたり炊かれたりして、美味しく頂く。
ゆでるときは皮ごと、炊く場合は皮をむいてご飯と一緒に。
とうぶんの間、栗ライフが続く。

私は栗が到着すると、いそいそと袋から大きめの栗を取り出し、専用の皮むきはさみで硬い皮を削っていく。
渋皮は、爪で丁寧にこそげ落としていく。皮むきはさみで豪快に渋皮をブロック落としする人もいるが、
それだと身が一緒に削られるのであまりよろしくない。

ひとつの生栗をキレイにするまでに、5分以上かかる。しかし、ものぐさな私でもこればかりは自分でがんばる。
むきあがった生栗を、そのままもったいなく頂く。小さな栗を両手で持って「カリカリ」するさまは、
栗鼠に似ているらしい。

 たまらない。噛んでみれば、生野菜にも似た青臭さがひろがる。
かみしめるごとに甘さが現れ、周りに残った渋皮がその甘さを助長する。
他の炒られたり蒸されたりして乾燥したナッツが忘れてしまった、ざらっとした身からあふれる「生」の汁よ。
じゅわッとほとばしり、肉汁にも似たジューシーさから、栗の実に込められた栗の樹の生命の奥深さを知る。
歯ざわりは「コリコリッ」硬いのだが、弾力がある。一旦押されて、戻ってきて、砕ける。
ゆで栗ではこの歯ごたえは無い。
大 人 の 味 … … !  !

 たくさん食べるとおなかを壊す。物によっては幼虫が住んでいる。
その辺を気をつけて食べれば、生栗もおいしい秋の味覚なのだ。
スーパーにうってる生栗はなんとなく食べる気がしない。栗の樹から貰ってきてすぐの、
あの新鮮な(イメージの)栗が一番美味しいんじゃないかと感じるからだ。

この文章を読んで、生栗に挑戦してみるのもこの秋のいい思い出かもしれない。
ただし、腹を壊したり虫に出会って嫌な思いをしても、私に文句はいわないように……

(C)AchiFujimura 2003/10/04




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