なにしにとおえ 長野の方言で気になる言葉として、「なにしに」と「おえ」がある。 結構使うんだけど、人に説明する段になると詰まってしまう。一言で標準語に言い直せない。 単語ではなくて、状況や行動を表す言葉だからだろう。 ★なにしに 説明が難しい言葉。標準でも普通に使われている「なにしに」と混同され「方言じゃないよ、普通に使うよ」なんて よく言われるんだが、(使うニュアンスによるけど)絶対に方言だ! ・標準語の例)そんな遠くまで、なにしに行ってきたの。 ・標準語の例)あんた、うちへなにしに来たんだよ。 主に、「行く」「来る」などの、移動系の動詞につながることがほとんどなのが標準語の「なにしに」。 さて、信州における「なにしに」の使い方はこうだ。 ・信州語の例)そんなこと言われたって、なにしに。 ・信州語の例)あとからのこのこ手伝いにいったって、なにしに。 主に、先にこれからする予定の行動や言われた文句の後に、一番最後の単語として「なにしに」が使われる。 二つの「なにしに」について、「なにし」の部分は同じような意味だと思う。ただし、最後の「に」が、全く違う意味の文字なのだ。 標準語の「に」は助動詞(あやふや)で、「しに」という動詞になってるわけだ。 信州語の「に」は、語尾の強調。「ひさしぶりだに」「よくやってるに」など、最後に「〜じゃない。」って言う感嘆のような 意味合いをつける、または暗に「でしょう?」と促すときにもつかう。 なので、信州語の「なにしに」は、意味をわかりやすく書くと「そんなこと言われたって、どうしろというのか。いや、どうしようもない。」 という、古典で言うところの「かは」みたいな反語であるといえると思うのだ。 もうひとつのほうも、「あとからのこのこ手伝いにいったって、何が出来るというのか。いや、何も出来ない。」というニュアンス。 行動することはあきらめている。または、文句への言い訳のようなニュアンス。 もちろん、標準語の「なにしに」も使います。語尾にこなかったときは普通です。 「なにしに山まで行っただい」とか…… ★おえ 「おえ」はかなりオールマイティな言葉。掛け声の一種。主に若者・男性が好んで使う。 ■抗議として 「おえ!(やめろや)」(おいおい、やめてくれよ) 「お〜〜〜ぅえ〜〜〜、お〜〜〜ぅえ〜〜〜?」(子どもが泣きながらだだをこねている) ■呼び止めとして 「おえ!」(おーい) 「おえ、まつだ」(おい、まってくれよ) ■感情表現として 「おえ!」(ビックリ) 「おーえー?」(どうしてくれるんだよ本当にもう的) 「おーえー!?」(ありえねえ!的) 若者達は、「やめろや」「まじかよ」などの前によく「おえ」をつける。今風な感じだ。(笑) ……というように、そのときの感情が「おえ」の二文字でふしぎに伝わってくる、変わった単語です…… 文・藤村阿智 (C)AchiFujimura 2004/12/25 |