プレゼントは枕もとへ。「サンタさんが去年も来たよね」五歳の男の子がベッドにもぐりこんで、興奮したように言いました。 「去年は、テブクロとマフラーをくれたんだよ」 「そうだったね」 両親は男の子のはしゃぐ姿に、少し笑顔になって、うなずきながらいいました。 しばらく男の子は興奮した様子で、眠れずにいましたが、そのうち眠ってしまいました。 おかあさんはこらえていた涙を流しました。 「これでこの子ともお別れ。私たちは明日にはもういないのね」 「しょうがないさ、僕たちは貧乏で、コールドスリープの装置は子ども用一つしか買えなかったんだから」 明日はクリスマスですが、奇しくも同時に世界が終わるようなのです。 限りあるコールドスリープの装置に入ることのできる、限られた人々が、長い眠りにつくのです。 両親はそっと枕もとへプレゼントを置きました。 目がさめたらクリスマスで、サンタからプレゼントがあると信じている子どもです。 何年後かの目覚めのとき、プレゼントに喜んでくれると良いと、両親は祈りました。 そして十年が経ちました。一旦終わった世界もひと段落つき、目覚めの時がやってきたのです。 まず科学者達が目覚め、コールドスリープ者名簿を頼りに、眠った人たちを起こしに行きます。 ロックははずれていますから、手順を踏んで解凍するだけなのです。 「なんだこれは、ロックが解除されていないぞ」 あの男の子の、小さなコールドスリープ装置の前で、科学者は大きな声を出してしまいました。 「3,652日14:30で解除されるはずではないのか」 「技術者の設定ミスだ。36,521,430日でロックがかかっている」 「10万年も開かなくなっているのか……」 外部からは絶対開かないように工夫された装置です。 科学者は、その後もう一度男の子のところへ赴き、小さなプレゼントを枕もとへ置きました。 両親からのプレゼントの隣に、小箱がもうひとつ増えました。 「君が起きたときに少しでも幸せになれるように。……中身はお楽しみだよ」 科学者は凍って眠っている男の子をみつめながら、声をかけました。 未来のために、男の子の装置には解凍方法がきざまれる事になりました。 何度か人類は滅亡の危機にさらされ、そのたびに冬眠は繰り返されましたが、 男の子ほど長い年月設定された装置はありません。 10万年の間にはたくさんの人に発見され、枕もとにはそのたびにプレゼントが置かれました。 そしてとうとう10万年の月日が経ったのです。 この男の子は幸運です。10万年後の世界は、文明が最高レベルに達していました。 何度か無くなった文明が再度構築されることを繰り返し、高い技術で男の子を解凍する事に成功しました。 「おお、10万年前のヒトが起きたぞ。われわれよりずっと原始的だ」 「言葉は通じないかな。おはよう、おはよう、昨日の次の日で、今日は明日だったんだよ」 男の子は、まさに寝起きのようにボーっとした表情で周りを見回していました。 「プレゼントは?」 「ここにたくさんあるよ、これは総て君のものだよ」 10万年後の科学者が箱のひとつを差し出しました。ソレはほんの数日前に届いたものです。 男の子が開けてみれば、それは今 大流行のものでした。 「ぜひ君にってね、ノモナ・カウコとか、イシラジュメをみんながプレゼントしてくれたよ」 男の子はノモナ・カウコとイシラジュメを受け取りました。 「なにこれ、サンタさんはおじいさんでもなかったし、ヘンなものくれるんだね」 「ぽっけエモンのぬいぐるみが欲しかった」 「ぽっけエモン無いの?やだ、やだ」 男の子は泣き出してしまいました。 確かに両親からのプレゼントは「ぽっけエモン」のぬいぐるみでした。 しかし、10万年の間に肥大化したプレゼントの山は、朽ちた古いものから焼却処分されていたのです。 end
(c)AchiFujimura 2008/12/20
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