【漫画の感想】本気のしるし(星里もちる)全6巻

※これは以前本読みブログホンヨンダのほうに掲載していた記事です。
お気に入りの記事は少しずつ移動させています。 元の記事はこちら

本気のしるし(星里もちる)全6巻

文具店を紹介する本を購入しようと思って検索したのに、
まだ発売されたばかりだったからかデータベースに反映されていなくて
代わりに検索結果に出てきたのがこの漫画。

中小文具店に勤める男・辻が主人公。

とのことでしたので、文具店モノ……なのかなあ?と思いつつ、紙の本は絶版のようですので
電子書籍で購入!

実は星里もちる先生の漫画は苦手なものもあって……
「りびんぐゲーム」好きで、リアルタイムでも読んでたし、単行本も持ってたし、
数年前に出たコンビニ廉価版コミックも購入しましたよ。でもそのつもりでほかの作品を買うと、大体最後まで読めないんですよ。

だから、「本気のしるし」は文具店モノということがキッカケになって、私にとっては久しぶりに全部読めた星里もちる先生作品ということになります。

まず、文具度ですが、低いです。
文具が出てくることを期待して購入してはいけないです。ほとんど出てこないです。
あと、辻くんが勤めてる文具店はひどいです、(笑)残念ながら旧態依然とした、古い体質の会社で、こりゃたぶんつぶれるな……って感じです。文房具業界は厳しいんですよ。昔ながらのスタイルでやれてるところもあるけど、たぶんこのムラサメ文具(株)に将来はないですよ。文房具の会社だと思って読んでると逆に切なくなってきてしまいますよ……ある意味リアルで……

辻くんは営業マンだけど、なんか倉庫で在庫を数えてるぐらいで、商品としての文具の姿も出てこないし
その倉庫で後輩のみっちゃんとチュッチュするぐらいです。

【あらすじ】
文具店に勤める辻は、表面の顔だけはつくろって波風立たないよう周りに調子を合わせて生きてきた。
流されるようになんとなく、言い寄ってきた二人の女と付き合ってる。片方の後輩女子は完全に遊び。先輩女子ともなんとなくで付き合ってる。正直どっちもめんどくさい。
そんなつまらない毎日だが、踏み切りで車をエンストさせて危ないところだった不器用な女を助けてしまったのをきっかけに、その「うそつきでいい加減で頼りないうかつな女」のことが放って置けなくなってしまった。
これは恋なのか?
女はふわふわとあっちいったりこっちいったりいなくなったりトラブル持ってきたり擦り寄ってきたりで辻を翻弄する。
辻は地獄を見るのか天国を見るのか?

話の内容はとにかくトラブル続き、どろどろしてる。
妙なリアリティ。これが星里もちる先生のすごいところ。(で、苦手なところ)
トラブルメーカーのヒロイン「浮世さん」は、こんな女いねーよといいたいところだけど、
いる…… こういう人は存在している……
断わるのが下手で、八方美人で、困ったらその一瞬だけごまかせる(すぐにばれる)ウソをつき、
怒られたりしたら即座に謝る。反省して見せる。
でもすぐまた同じような失敗を繰り返し、人を裏切り、「信じて」を連発するのに人を信じない。
こういう人間に「あの人は悪い人じゃない」「あの問題以外は申し分のない魅力的な人」というオプションがついちゃったら、かかわった人間は地獄ですよ。

【浮世さんについて】
浮世さんは不器用で断われなくてうそつきだけど、いい子なんですよ。
風俗でもお客さんのために一所懸命奉仕して働いちゃう。
ホレ、いい子でしょ。でも風俗で働くしか道が無いんですよ。ほかに行くところとか、頼れる人とかが少ないという理由でそこに行くしかないんですよ。なにこのリアル。
断われない、嫌われたくないって八方美人の性格の人に、人から狙われる美貌と身体と金がくっついてしまったから浮世さんの人生は転落してしまっている。大人になったらそんな頼りない人間でも一人で何とかしなくちゃいけないことばかり。
途中で、浮世さんに似たタイプで、でも幸せになってる「昔のお友達」という女性が出てくる。
彼女の悲痛な「自分を守るのが下手な人間もいる、それのどこがいけないのか。悪いのは騙し・つけこんでくる人間ではなく、守るのが下手な人間なのか?」という叫びは、私の心にも刺さる。私もどちらかというと自分を守るのが下手なタイプだからだ。

【辻くん】
辻くんは星里作品ではよく見られる優柔不断男。そこに「人間関係めんどくさい」って性格がくっついたから、結構ひどい人間に見える。ただ、一応 人との摩擦を少なくしたい、うまくやりたいという考えを持った人だから、社会はうまく渡っていて、信頼も築いているし、がんばる姿には周りも好感を持って応援したくなるタイプらしい。そこに助けられている。(辻自身も、読者も)
なあなあで付き合っていた二人の女には、こっぴどくやられてから別れることになる。でも二人とも、ひどい仕打ちをしつつも、実際凹んでる辻を見るとちょっとかわいそうだなって思うところもまたリアル。
意外に、浮世さんには厳しいことを言いつつもひどいことはしていない。そこが最終的に幸せになれるポイントじゃないかな……

【たぶん一番良い人】
最初から最後まで、わけアリでインテリヤクザのような裏社会の男、脇田さんがたぶん一番いい人。
わたし脇田さんが好きだわ。この安定感。この人も、浮世さんに実はメロメロな男の一人なんだろうなあ……

【ムラサメ文具(株)と文房具】
最初のほうに書いたとおり、文具店に勤めながら文房具はほとんど出てこない。
箱が置いてある倉庫で箱を数えるシーンばかり。
ムラサメ文具は中小の文具店だというけど、メーカーでなく小売だとこの規模はかなり大きい。だって部署がたくさん分かれてるし、役職がたくさんあるし、店舗も多数運営してるし、女子は制服着てるし……
ただひどい会社です。会社の規則・仕打ちに何度吹いたことか。ブーッ!!
・社内恋愛禁止。発覚した場合はキャリア関係なく女子が辞めることが暗黙の了解
・社内恋愛の証拠写真をプロジェクターで見せながら弁解させ責任を問う
・営業職の不倫は言語道断。仕事に影響がある。即刻関係を清算せよと詰め寄る
・不倫の証拠をプロジェクターで見せ(略)
・社内の役員が「この会社に未来はない。過去の取引にしがみつくばかりで自社を変える気も無い」とばっさり
・他社へ転職しようとしてることの証拠をプロジェクターで(略)
・発注伝票の改ざんなど嫌がらせが可能
すげえやな会社だな。と最初から最後まで。

最後のほうで、ボールペンに名入れがされてなかったという(元文具小売店勤務としては)肝の冷えるエピソードがあったり、「手にはいりにくい商品」として「B4のレターケース40個」が出てくるあたりは燃えた。
B4のレターケースって手に入りにくいんですよ。特殊なサイズだし。でも漫画の原稿用紙やスクリーントーンはこのサイズで、もしかしたら星里先生が入手に苦労したのかも。


【ラスト・ネタバレあり】

最後は結局幸せになったようです。
断われない性格の浮世さんは、辻くんのことをはっきり大事な人だと意識したことで、自分を変えようとしました。そして、会えない期間に、断わるべきときは断われるように成長してきました。それでも周りに隙がある女と思われてしまう。やはり辻くんはそれが不安な様子。
また死ぬようなエピソードを経て、生還した浮世は、きづくんですね。「自分が美しくなければ男はちょっかい出してこない」ことに……
まあそれだけじゃなく、浮世の成長もあってのラストだと思いますけど、自分をこ汚く(失礼)することで無用のトラブルを避け、男関係の不安を払拭しようってのは、昔の怪談であった「美人で夫が心配するからと自分の鼻を削いだ」って話しみたいじゃないですか。そこまでじゃないけど。
浮世さんが多少醜くなっても、辻くんのほうがいい感じに枯れちゃってるから問題ないかもね。

というわけで、なんだかんだ突っ込みながらもとても楽しく読みました。一気に読んでしまったし。
この二人から目が離せない気持ちになった。キャラクターの心理描写がすごい。じわじわずれていくところに説得力がある。
ひとつだけ、辻くんにほかの家族の姿が見られなかったのは残念。なんで家族出てこないんだろ。浮世さんのほうは「愛されたのは生まれたときと名前をつけられたときだけ」ってセリフで、本当に頼る人がいないのはわかったんですけど。成人男性だと家族がちっとも見えてこなくても普通なのかな?

このじわじわ~っと転がっていく感じはとても感想文じゃ紹介できない魅力なので、ぜひ最後まで読んでみて欲しいです!

【本の感想】虫づくし(別役 実)

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虫づくし (ハヤカワ文庫NF)
虫づくし (ハヤカワ文庫NF)

 

虫が好きな私にとってはタイトルからしてそそる本。
しかし、虫の本なら何でもいいというほど活字好きではないので、本屋でパラパラとめくってみる。
序説の「虫は虫である」という文章で、「虫とはにょろつくものである」から始まる多数の「虫とはなにか!?」説を読み進めていくうちに、これはおもしろそうだと購入してしまった。

そしてその序説の部分で私はまんまとだまされたわけだ。(笑)
リアルに描かれた登場人物と、少しミステリーな体験談風の文章に、すっかりノンフィクションだと思ってしまったんだよね。

最初の水虫の章でもまだあまり疑わなかった。東北地方の餓鬼が舐めとれば水虫が治るなんていう説にも関わらずだ。
「たむしによる自殺」なんていうのも「ヘエー」とか思いながら読んでしまった。
この辺は虫っていうか……目に見えないし、自分がたかられた事も無いから実感できなかったのかも(笑)
「プラスチックを食べるゴキブリを開発」というところでようやく
これは……もしかしたらジョークなんじゃ
と気がついた!(笑)

遅すぎる!(笑)
気付いてからはどんどん出てくる奇妙な虫とソレを取り巻く人間の様子がおかしくて、ずっと笑いっぱなし。
いかにも権威のありそうな架空の学者や雑誌名、本当は無いであろうソースの示し方などがリアルすぎて「やっぱり本当なのかも?」って幾度か疑ったよ。

ナメクジにも毛が生えましたというCMを流したらヒワイだといわれたという話とか、淫靡で面白い。卑猥だって言われりゃ卑猥だけど、卑猥だって気付かなきゃただの毛が生えたナメクジなんであって、みんな「卑猥だ」って気がついても「何処が?」って説明するのにためらっちゃう(で警察がわいせつ物として取り締まりたいけど躊躇してるんだよね)所とか、目に見えるようで楽しい。

哲学的な物も中にはあって、
「ゲジゲジはゲジゲジを食べるので、ゲジゲジだけで完結する」
「なめくじは病気のかたつむりだ」
という話は考えさせられるなぁ。

一章ずつが短いので、少しずつ読んでも小噺のように楽しめる。
電車の中で読んだら笑えてたまらなかったけど、電車の中でも楽しく読めます。
ただし挿絵が虫だったり、見ようによってはヒワイ(笑)なので周りに迷惑をかけないように。