2023年12月、自作紹介まつり!
12月は毎日、自分の作品から1ジャンルにつきおススメの10作を紹介するよ。
どんな作品があるかぜひチェックしてね。
これまで紹介した作品の記事はこちら!#藤村阿智自作紹介まつり まとめ
ハト掌編から10作紹介する
説明しよう!「ハト掌編」とは!
500文字以内で書く、ハトをテーマにした掌編。ハトでさえあればSFだろうと恋愛ものだろうと短歌だろうと詩だろうトラップだろうとなんでもいいのです。
電子書籍にもまとめていて、1冊に50編ずつ収録。3冊出ているのでつまり150編以上あるのです!
電子書籍にリンクも貼っておくので、気に入った方はぜひご購入ください。いっぱい読めるよ!
BCCKS https://bccks.jp/user/126100(オンデマンド紙本も購入できます)
Book☆Walker https://bookwalker.jp/series/178130/list/
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ここはハトの世界、ハトの国
【1】001(タイトルなし)2018年
今日も街を行く人はハトの悪口を言っている。ハトは悪口に敏感だから、自分への悪口ははっきりわかる。それにしてもハトへの悪口はどうしてこんなに多いのか。ハトは悪意を受けるたび灰色になっていく。胸に光っている緑や青のキラキラしたものだけが善意である。そのうちこれもすべて灰色になって消えていくのだろう。
ハトはじっと穴を見つめることがある、あの暗い穴の底なら自分の灰色に気づくこともないのに。自分も他人もない穴の底に行けばハトはハトであるだけでいいのだ。
そして世の中のほかのものがすべて灰色になってから、ハトは少しの緑と青を見せびらかして歩けばいい。
今はうなだれて穴の底を夢見る。
記念すべき最初のハト掌編(最初はハトポエムと呼んでいた)。
暗いですね……
【2】062 ハト、転生 2018/5/28
死んでしまう前に転生のルールを知っているものはいないだろう。
まず、本当に転生というシステムはあった。係員と相談して決められるのだという。転生後の生活については、ひとつだけ希望をかなえてもらえる。「何を食べるのが好きですか?」
生きるために何を食べたいか、それだけだ。
どうやらこれで何に生まれ変わるかが決まってくるらしい。
「エビが好きなら何に生まれ変わりますか?」
「エビを主に食べる様々な生き物ですね。よりたくさん食べられる、そして生まれる『枠』のある所へ。今だと……タコの枠が空いてますね」何を好きだと言えばいいのか、困ってしまった。特に食べ物に興味がない人生だったから、なんでも食べたけど好物もない。ほかの生き物が何を食べてたかもよく知らない。こんなことならもう少し興味を持っておけばよかった。
正直に「食に興味がなくて。なんでも適当に、その辺にあるものをつまめるような生き物はいますか」と尋ね、係員が「ヒトかハトの一部ですね。枠はハトが空いていますので、そっちにしましょうか……」と答えるのを聞きながら、僕はなんでも食べるハトに転生したのだ。
これいい話だな。とても私好みだ(書いたのじぶんだしな!?)
食に興味がなくてハトに生まれる。正直自分のことですね。自分の気持ちを増幅させたりちょっと視点を変えたり他の人の立場に置き換えたりしてお話作ることはよくあるので、自分の一部がはいりこんでいるのは普段どおりです。
【3】025 ハトのオフ会 2018/3/7
「第一回ハトアイコンオフ2018春」に参加した。
SNSでハトのアイコンを使っているユーザーだけが集まって、飲み会をするのだ。私はその場に参加してみて驚いた。みんな人間じゃないか……いや、もちろん、私も人間だから、人間だからこそSNSにいるし、飲み会に来るのだ。でも、なぜか漠然と、全員ハトなんじゃないかと思ってたので、ビジュアルが人間なことにびっくりした。あたりまえだ、あたりまえなんだけどなんだかちょっとがっかりしてしまった。うーん、がっかりしたんだろうか? 複雑な気持ちである。
そしてその場に「行くよ」と言っていたハトアイコンの一人が、待ち合わせ時間が過ぎても現れなかったので、彼(彼女かも?)抜きでオフ会は開催されたのだけど、後日SNS上でそのことが話題になった。
「ハト男さん、なんでこないだのオフに来なかったんですか。会えるのを楽しみにしていたのに!」
「え、わたしもいましたよ。ただ、皆さんと一緒に居酒屋の前までは行きましたけど、わたくし、ハトなもんで、入店は遠慮したのです」そういえばハトが一羽、足元にいたような気がする……
ハトアイコン結構いるので、終結したらおかしなことになりそう。でも意外と気があったりして?みんな同じものを自分のアバター的存在として使ってるんだもんなあ。私自身、ハトアイコンになってからちょっと行動や好みが変わりましたからね。それまでハトにそこまで興味がなかったのに、今やこんなですもの……
朗読したものもあります。1分ぐらいだからぜひ聴いてね。
【4】052 ハト豆知識 2018/4/27
私は知っている範囲の豆しか食べていないんじゃないか。もしもこの世の中にもっとおいしい豆があるなら、豆を選ぶ権利は私にもあるだろう。
友鳩にそんな話をすると、彼は馬鹿にするどころか「俺はいろんな豆を知っているぞ。お前も行ってみるか、豆博に」と言い、私を「世界豆博覧会」会場まで案内してくれたのだ。
「中に入らないのか?」
友鳩に声をかけると「正直なところ、俺は見てしまったことを後悔したんだ。お前もやめておくか? どうせ今の豆が一番うまいんだぞ」と、煮え切らない様子で言う。
「ここまで来たんだ、私は豆を知るぞ」勢いで中に入ると、そこでは世界中の豆と、おいしい食べ方が紹介されていて、すべて食べてみたいと思うと同時に、一生かかっても食べ比べられないことに早々と気づいてしまった。「なんか、毎日の食事がつまらなくなってしまうんだよなあ。ほかにもいい豆があるのを知っちゃうとさ」
友鳩と私はいつもの豆をついばみながら話した。
豆を知ることは手の届かない場所にも豆があると気づいてしまう、抜け出せない沼のようなものだったのだ。
こちらもお気に入り。朗読動画あります。
【5】099 ハトは透明 2019/1/12
ハトは透明な存在で、どこへでも行ける。
ハトがいたって、もはや誰も気にすることはない。もし私がハトになれたら、いきたい場所はたくさんある。ヒトである私が行けない場所だ。
人種も、年齢も、性別も、金持ちか、頭がいいか、弱いか、誰と歩いているか。周りからの評価が悪ければ、あっというまに私はとらわれてしまう。ヒトはヒトを常に狙って、弱いものから奪おうとする。ヒトという入れ物には、死や暴力が付きまとうのだ。ハトはいつでも、だれとでも入れ替わることができるように心がけてきた。どこに住んでも、どこを歩いても誰も気にしない。いつもの同じハトだと思うだけだ。かわりがいくらでもいるからこそ、誰も失われない世界を手に入れている。
ハトは皆で同じように生きることで、自らを透明に仕上げたのだ。
わたしが、ハトのどういうところが好きなのかがなかなか詰め込まれたお話だと思う。見つけてほしい気持ちと見つかりたくない気持ちと両方がある。言葉にするとよく似ているけど、状況も望むものも全然違うんだなと思う。
【6】101 ハトに餌 2019/1/23
私は「ハトにえさをやる人間」がきらいだ。
食事は生きるために必要である。朝、陽が出て明るくなり始めたころから、時間をかけて食べものを探し適度に腹を満たす。
私たちハトは食べすぎない。食事にばかり時間を取られては生きている意味も見いだせない。食後は安全で暖かい場所にあつまり、情報交換をしたり思索にふけったり。恋の相手にアピールしたり、やることはたくさんあるのだ。それが、人間がえさを撒くとどうだ。仲間たちは高栄養で美味しい食べ物を少しでも楽に得ようと、全てを放りだし、くるったように騒ぎ、集まり、奪い合って食べる。私はそれを離れた場所で見つめている。
騒ぎを聞きつけてハトがどんどんやって来る。食事は本来そんなふうにとるものではないだろう。ハトの本質が下品なもののように見えてうんざりする。
「おい、えさ祭りだぜ! お前はいかないのか」
友が私にも声をかけてきた。普段と違う、興奮した声と慌てた羽ばたきで、こちらを一瞥しただけでまっしぐらに飛んでいく。何という下品さ。「では私もご相伴にあずかるとするか」
上品で距離のある態度をとってもむだだ。結局私も同じハトなのだ。
与えられたエサに群がっているハトはあまり好きになれない。そういう側面が彼らにもあるのかと思うとやっぱりちょっとうんざりしてしまう。「エサとハト」も観察するとなかなか面白い。その辺の話ちょっとまとめてみようかな。
【7】075 風になったハト 2018/8/18
あのハトはいいヤツで、友達にも好かれていたけど、夢を語るときだけは笑われていた。
「いつか風になりたいんだあ」
冗談だったらたいして面白くもないけど、どうやら本気のようだったから周りはいつも笑ってバカにした。
「風って、なるようなもんじゃないだろう。風になってどうするんだ」
僕たちがそういうと、あいつはまじめな顔をして
「境目をなくすんだ。風がどこから風で、どこから風じゃないのかわからないところがカッコいいし、僕は優しい風になってみんなを包むんだ」
というもんだからまたからかいたくなる。でもあいつが姿を見せなくなってだいぶたってしまい、こういう場合はどっかで「しんだ」んだろうなってことはわかっているんだけど、僕たちはくちに出さないだけであいつは風になったんだってみんなが思っている。どの風がどこからあいつでどこからあいつじゃないのか判断つかないけど、たぶん風のどれかがあいつなんだろうと。
だってもう、そう思うしかないじゃないか。
ちょっと切ない気持ちで、ハトの生と死を考える。これはハトに限らず身近な生と死、自分自身のものも考えているということ。どれだけ書いても書き切れないのでたぶん今後も書く。
【8】048 2018/4/20
絶賛開発中の「物質転送機」による生体転送実験に、ハトが使われることになった。実験のため集められたハトたちの目の前で、一羽が転送機Aの中にセットされ、スイッチが入る。
特になんのアクションもなく、転送機Aからハトの姿が消えた。見守るハトたちの首もおもわず伸びる。
転送機Bに先ほどのハトが移動していれば成功なのだが、B機の中には無残にもハトの要素を残した「なんだかわからないもの」が入っているのだった。実験は失敗じゃないか。ハトたちのくちばしも開いたままふさがらない。そしてとうとう自分の番が来て、あの「ハトだったなにか」になってしまう自分を思うと怖くて仕方がないが、脚にも羽にも輪がつけられていて逃げられない。
スイッチが押されるところを確かに見た。次の瞬間、ハトは初めてみる素晴らしい場所へ到着していた。転送機AとBとの間に楽園があったのだ。失敗して殺されたと思っていたハトたちもみんなここにいた。「転送の衝撃で、肉体を離れたハトという概念がここに送られたんだろう」なるほど。転送機は素晴らしい、みなAに入って早くここに来ればいいのに。人間もさ。
伝えるすべはない。
評判の良かったSF的ハト掌編。ハト以外でも私はこういう「行った先のことを知らせるすべがないが、こちらはとても良いもの」という話を書くのが好きだ……
【9】017 ハトは飛び立つ 2018/2/27
ハトは飛び立つ
いんたーねっとの風に乗って
遠くの島のようなあなたのPCにたどりつき
キャッシュのふりしてそこで羽をやすめ
いつかシステムファイルのふりして
もじゅーるの一部になって
呼ばれればすぐに顔をだす
ハト時計より頻繁だよ
もしも呼んでもらえなければ、
呼んでなくても顔をだすよ
そのうち世界が心配になって
ずっと顔をだして見張ってしまう
見えるのは同じようなハトだけになった世界
ほら……また、あそこにも、
不安になって穴から顔を出すハトがいる
これの朗読はお気に入りなのでぜひ聴いてほしい!
というかちゃんと動画にした朗読は気に入ったものなのです……声に出して読んでみるとなかなか私が込めた思いや意味をそのまんま声で表現するのって難しいなーと思って。これ朗読も解釈違いが出るのがどれぐらい許せるかによって人に読んでもらえるかどうかが変わりそう。
【10】(番外編)ハト妄想劇場
はぁ・・・お金持ちに飼われているたった一羽のハトで、ご主人は仕事で世界を飛び回っているからあんまり家にいないんだけど、アタシが寂しくないようにちょくちょく帰ってきてくれて、そのたびに世界中の珍しくてきれいな陶器や木彫りのお土産を買ってきて小屋の中を飾りながら夢のような外国の花々のことや幸せな子どもたちのお話をしてくれて、小屋は高い山の中腹にある塔のてっぺんだから空気もきれいで景色も良く見渡せて自分で飛ぶ必要もなくて蛇も鷹もやってこなくて、おなかがすいたらトルコの鮮やかな食器に盛り付けた色とりどりで美味しくて飽きない食事を食べて、喉が渇いたらベネチアングラスの器に入れられた常温の水をいつでも飲めるし、眠るときにはもはやアタシを暖めてくれるだけの存在になった母のふかふかな羽毛にくるまれて、見上げれば星空と宇宙がペイントされた天井に貝殻で作ったモビールがキラキラ輝いていて、夜が明けたらまた旅に出てしまうご主人がオルゴールをそっと開けてツィゴイネルワイゼンの最後の一周がゆっくり流れるのを聞きながら目を閉じてくちばしの下をいつまでも優しくなでてもらうハト生になりたい・・・
これはマストドンでフォローしてるとあるひとがちょくちょく書いていらっしゃった、「はぁ・・・~(略)~人生になりたい・・・」という妄想文があって、その構文を拝借して書いたもの。パロディなので掌編集には収録していない。こういう風に文脈を書かないと意味が分からないし、掌編集にこの解説入れるとなんか雰囲気がそこだけおかしくなっちゃうし~ということで。
でもこの文章で書いたハトのいる環境はとても魅力的で、この世界は好きなんですよね。こういうところで大事に飼われるハトになりたい気持ちは本当です。
電子書籍にリンクも貼っておくので、気に入った方はぜひご購入ください。いっぱい読めるよ!
BCCKS https://bccks.jp/user/126100(オンデマンド紙本も購入できます)
Book☆Walker https://bookwalker.jp/series/178130/list/
Amazon
ここはハトの世界、ハトの国
新作もお楽しみに! 明日も更新するのでぜひ次もみてみてね。