映画「野火」を観た

映画「野火」を見ました。1959年の市川崑監督の方じゃなくて、2014年の塚本晋也監督のほう。

なんで急に見たかって言ったら

・たまたま読んでた映画評ブログで「みんな見たほうがいいよ」と言われていたので思い出した(もともと、以前劇場で公開されてた時に見たいと思っていた)

・amazonprimeとかで見られるかな?と検索したら見られるようだ(prime会員なので対象商品は0円で鑑賞できる)

・時間も90分ないということで、長すぎないので(時間的な意味で)気軽に見られそう

という3つが重なりまして。さっそく再生したわけですよ。

一応最初に言っておくと、残酷描写(映像)がだめなひとには全くおすすめしません。戦争のことを知っておきたいという話だったらこれじゃないのをいくらでも見ればいいと思うのと、原作を読んだらいいんじゃないかな……

【以下感想、多少のネタバレありよ】


感想としてはあんまり良くなかった。気がする。

なんか戦争ものってずるいね、単純に作品として「面白くない」「好きじゃない」って言っても、実際にあったできことを切り取っているわけで、その悲劇についての感想みたいになってしまって批判するのに気が引ける。

まあいろんな角度から戦争を切り取っていいと思うので、残酷でこんなにも人間がモノみたいに破壊されて転がりますよ。という内容でもいいと思うんですよ。でも何と言うか、それが過剰すぎて、ちょっと「見せたいのは残酷さや悲惨さじゃなくて、破壊されたもの(ころがった人間)そのものじゃないのかな?」って言う疑いがわいてきちゃうんですよね。「悲劇だ……」という悲しみから反動で戻ってきちゃって「なんか死んでも転がってもこの場じゃしょうがないな、まあこうなるもんなんだな~」とその状況に慣れてきちゃうというか。(その「麻痺して残酷になってしまう」観客の心の動きまでが作品だと考えると効果はあったのかもしれない。)

個人的には、ここまで地獄のような世界を味わってる主人公が、このまま生きて帰って高度成長を支える普通の人間として生きているところが見られたとしたら一番ぞっとするというか、……実際にそうだったわけで、途中でそのことを考えていたわけですね。こういうのを潜り抜けても、生き残ったからには、その思い出はありつつもきっと生きていくんだろうと。戦争に一般市民が行くというのはそういう、地獄の記憶を抱えても普通の生活をしていかなくてはいけないという悲劇があるんだろうなあと改めて考えていて、もしかしたらこの映画は最後にそういう描写があるのかもしれない。と思ったのです。そうしたら観客は、残酷なことに慣れてしまった状態から心を取り戻して、悲劇に気が付くのかもしれないと。

結果としてはありました。ただちょっと弱かった。主人公の職業が物書きだったから、部屋に閉じこもって苦悩している感じが描かれていたけど、あの戦場から平穏な、安全な世界に戻ってきて、改めて地獄の様子に思いをはせているという感じ……がなかったとは言わないけどちょっと弱かったかなと。


映画を見たら、面白かった★気に入った★というときは人の感想を見ないか★5つの感想だけ読むかして、疑問が残ったりもやもやする時は★5つと★1つを見て、人の意見や提供される情報によって考え方の補間をしています。

今回は★5つと1つを両方見ました。

まあ1つの人にわりと同感かな……音が小さい、声が聞こえないって★1つにしてる人のレビューは除く。私自身は気にならなかったし、なんかあんまりセリフ関係ないって言うか。あーでも、「国に生き別れてたけど最近再開した息子(本当にそんな人間がいるかはあやしい)を置いてきたんだというおやじ」と、「俺は妾の子なんだということを気にしている寂しがりの若もの」の会話は聞こえてるほうがストーリーに味わいが出るかもな。

「ジャングルなのにたべものがないとかリアリティがなくておかしい。草でも虫でも食べれば?」ってレビューにはさすがにコメントでツッコミが入っていた……映画内でも虫を食べたり、おなかを壊すから飲み込めないけどもぐもぐするだけのゆでた草とか出てきたよね。最初の方でイモを生で食べて腹壊してたし。人間が生で食えるものってそんなに多くないんですよね……確実に、即効性の毒がない食べ物って肉ぐらいしかないという……草は知識がないと危ない……


とにかく映画を見たことで原作を読みたいと思いましたので、原作の電子書籍を買う予定です。

 

2018/6/14 「万引き家族」観てきた

映画「万引き家族」観てきました。

なんで見ようと思ったんだっけな。樹木希林が見たかった、というのと、あと「出てくるときには万引きできる気分になってた」みたいな感想を見たから(笑)なんかそういう感想も心に刺さるときがあるよね!

ネタバレとかあるような作品ではないと思うんだけど一応隠しておきますので、つづきは映画を見た人向けに、というか私の感想覚書です。

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【漫画の感想】フイチン再見!10巻(村上もとか)完結

以前描いたまんがや本の感想です。

今回の記事の初出はこちら~
http://honyonda.seesaa.net/article/452735322.html
http://honyonda.seesaa.net/article/413881232.html


【1巻】

フイチン再見! 1 (ビッグコミックス)
フイチン再見! 1 (ビッグコミックス)

とっくに書いたと思ってたのに、まだ感想書いてなかった。
いま、4巻発売をきっかけに再読中です。

女流漫画家・上田としこさんの人生を描いたマンガ。すごい。
上田としこさんといえば、私には「フイチンさん」でおなじみのひと。
母が「フイチンさん」が大好きで、復刻版を購入して、私も読みました。
その後大人になってから、アニメビデオが発売されたことを知って、それを制作会社から通販で購入して、母と一緒に見ました。
でもそういうきっかけがなかったら、私の世代には上田としこ先生は、まったく身近じゃない作家かもしれない。
上田トシコ – Wikipedia

長生きなさって、2008年に90歳でなくなったときはニュースで聞いて亡くなってしまったことに驚きました。
いつまでもフイチンさんみたくお元気でいらっしゃるような気がして。

この「フイチン再見!」は、そんな上田としこ先生の生涯を描くマンガになると思います。
もちろん、作品以外の先生についての情報はほとんどなかったので、こうやってマンガで読めることはすごいことだと思ってます。

以下マンガの感想。

フイチン再見! 1 (ビッグコミックス)
フイチン再見! 1 (ビッグコミックス)

1巻は、第一話で上田としこ先生が漫画家として活躍されているシーンから。
もう第一線の人気作家として、多忙な毎日を過ごされ、一緒に住む家族たちの生活を支えています。
そこに、なくなったはずの父親の幻が現れる。会話しているうちに、思い出されるのは幼い日から今日までのこと……

ハルピンでの生活が描かれる1巻。私、そういえばハルピンのことなにもしらないな。だから、西洋のような町並みがあったということ、そこに日本人、中国人、ロシア人、ユダヤ人とさまざまな人が住んでいたこと。なにもかも興味深いです。日本人で、お嬢様である「としこ」も、楽しみも悩みもあるのです。

1巻の後半では東京へ戻ってくる。学校は日本の学校へ通うため。兄の友人からの紹介で、イラストレーターで漫画家の松本かつぢ先生の弟子になったものの、先生はなにも教えてくれないで、もって行く絵やマンガにマルバツをつけるだけ。
それも6ヶ月続けていたら、先生からイラストの仕事をいただく。

周りの女学生は、どんなお相手のところへ嫁ぐのか・どういうお嫁さんになるのかを考えているのに、としこはひとり自立するためにマンガの道を目指す。

【2巻】

フイチン再見! 2 (ビッグコミックス)
フイチン再見! 2 (ビッグコミックス)

2巻。先生の紹介もあって、新聞に連載を始める。
父の反対も押し切って、マンガをもっと上手に書けるように、東京で絵の練習を続ける。
日本は戦争の時代に。絵を描く、マンガを描く、それももしかしたら危ういかもしれない時代。
友人の紹介で出会った近藤日出造氏には、「お嬢さんすぎて世間離れしているから、漫画家に向いていない」といわれてしまう。
働いてもっと世間を知ったほうがいい。とのアドバイスを受け、仕事を探すものの、女性の給料はとしこが父から送ってもらってる仕送りの3分の1しかないことを初めて知り愕然とする……

今まで読んだ戦争時代の話と、あまりにかけ離れた生活をするとしこの姿が逆に目新しい。
こうの史代さんの「この世界の片隅に」でも、戦時中といえども楽しみをもって暮らしたり、節約の中に贅沢を感じていたりと、「戦争は戦うだけじゃなく、生活のとなりに戦争があるんだ」ということを改めて感じたものですが、この「フイチン再見!」でのとしこの姿は、贅沢ができないはずだった時代に、多くの民衆より一段上の裕福な生活を送る人がいたこと、そしてそんな人ですら戦争の渦に巻き込まれ、世間の目を感じながら生き、思うがままには生きられなかったということを表していると思う。

・真珠湾攻撃・開戦の一報を、としこが銀座のパーラーで久しぶりのホットケーキをランチにほおばりながら知るシーン
・ハルピンでの生活中に雑誌や文化などで触れたアメリカの大きさ・強さを、裕福でインテリだからこそ肌で感じている
というところは、いままでに私が読んだ戦時中を描いた作品の中には出てこなかった、新しい目線だと思った。

【3巻】

フイチン再見! 3 (ビッグコミックス)
フイチン再見! 3 (ビッグコミックス)

3巻。画学生仲間の弦田氏に肖像画を描いてもらい、これまでの仲間と学んだ3年間を想いながらハルピンへ「帰国」するとしこ。
過激なハンガーストライキを経て、働くことを父に認めてもらったとしこは満州鉄道に勤め始める。
巨大な、国家そのもののような鉄道会社。
そこで知る、勤労女性の待遇の低さや、周りの人間とどうかかわっていくかの経験。
貧困と罪が身近に転がってるのを知る。
このマンガ、出てくる風景もきれいで人々も服装もみないいんですが、食べ物がおいしそうでいいですよね~。としこがいいものを食べてるってのもあるかも(笑)
女性の環境を向上させるために立ち上がったとしこと、それを良く思わない人たちとの対立もある。
3巻はマンガをほぼ描かない。一回だけ、ポスターをマンガのように描いて、自分が人に与えられるマンガとは何かに気づくシーンは、この先重要になってきそう。

【4巻】

フイチン再見! 4 (ビッグコミックス)
フイチン再見! 4 (ビッグコミックス)

4巻。滅私奉公にいそしむとしこは、志願して慰問列車に乗り込み、鉄道沿線の各所をめぐる。
そこでも、であった少年たちの心をつかんだのはとしこが描くマンガ!
1945年8月を迎えて、日本は戦争に負ける。「だが、満州の日本人の”戦争”はここからはじまったのだ――」という裏表紙の言葉通り、あっという間に変わっていくとしこの周辺。
終戦の日はもう我慢せずにケーキを食べに行く! と息巻くとしこだけど……
戦争は終わったはずなのに、敗戦国としての試練がつぎつぎ襲ってくる。

本当にすごい話ですよ。この辺の、終戦後の満州のエピソードはほかの本でも読んだことがなくて、いままで触れてこなかった。上田家の居住していたアパートメントに三千人の日本人が避難してきて、ちからをあわせて共同生活を始めるんですよ。すごい……
「絵がかける」ことはここでもフルに活用される。

5巻の予告が最後にあったけど、不穏な感じですね……1巻の冒頭で語られてるからわかってるけど、つらいエピソードが増えそうだ。

【5巻】

フイチン再見! 5 (ビッグコミックス)
フイチン再見! 5 (ビッグコミックス)

4巻で終戦。5巻は終戦後ハルピンに残った日本人に起きたこと。
敗戦国・日本へ、掌を返したような中国・ソビエトからの仕打ち。
あちこちで起こる残虐な出来事が「明日はわが身」という不安のなか、としこたちは家族でひっそりと生きていく。
それでも、人気漫画のキャラクターを拝借して書いた絵が売れるところなどは希望もありますね。
また、日本が負けても変わらずに支えてくれる現地の中国人のあたたかさ。
行きずりの中国人兵士から受けた寛大な対応もあって、どんな状況でも100%つらいってことはないのかもしれないと思える……

シベリア抑留の話もそうだけど、終戦で日本はあっという間に復興に向かって、昭和30年には近代化が進んでるのに、海外に取り残された人たちの終戦後の苦労は大変なもの。
自分の国に帰るってことがこんなに大変だとは。

劣悪な状況の中、やさしくしてくれた人たちとも別れて日本へ向かうとしこたち一家。
でも、移動を始める前にとらわれてしまったお父さんがどこでどうしているか気になる……
っていうか、ああ……つらい展開です。そして6巻へ続く。

【10巻の感想】

10巻にて完結。
漫画家、上田としこの生涯。

フイチン再見!10巻

私の母が上田としこ先生の「フイチンさん」のファンで、私も高校生ぐらいの時に復刊した愛蔵版を読んでいる。
上田としこ先生を知っている同世代はすくないかもしれない。
私自身、フイチンさんは読んだことがあっても、どういう人が描いたのかと言うことはまったく知らなかった。

京都に国際マンガミュージアムができた時、漫画家の皆さんから寄せられた開館記念の色紙イラストの中に上田としこ先生のイラストもあって、それを観た時「あっ!フイチンさんの上田としこ先生だ!」と思った。
ほかには、フイチンさんがアニメになった時も、制作会社のwebサイトから通販で取り寄せ、実家に送ったなあ……
こないだ復刊したフイチンさんももちろん購入して、やはり実家に送りました。

読んだことのない人にはぜひ! おすすめしたい。
これを読んで中国(ハルピン)へのイメージが変わった、というか「いいなあ、楽しそうだなあ」という印象になった。

10巻は最終巻。上田としこ先生が漫画界の先頭を走ることは無くなったけど、新しい漫画と次々に生まれてくる女性漫画家を支え続ける。こんな姉御が知り合いだったら心強いだろうなあ……

そして、戦争が終わってから何年もたっているというのに、それでも戦争で受けたつらい思いは癒えないまま、自分にも、家族にも、戦争を体験した人々の作品にも残っていく。

前にも書きましたが、上田としこ先生は裕福な家庭の生まれで、戦前も戦中も素敵な服と髪型でおいしいものを食べたり画塾へ通ったりしているわけですよ。
いままで戦時中を描いた漫画と言えば、どちらかと言うと貧しい一般人がさらなる苦労を強いられる話がほとんどだったので、裕福な人目線の戦時中って言うのは新鮮に感じた。

「この世界の片隅に」の映画を見た若い人が「顔も見たことない相手のところへ嫁に行くとかいう設定は無理がある」と、あの頃の時代だったら別におかしくないことの雰囲気をつかめずにいる話を読んだけど、
私だって「戦前にホットケーキとかあるの!??ワンピースとか帽子とか洋風のものを身に着けてたり??」ぐらいのイメージですよ。なんか逆に戦前の人なんて遠い昔の人で、私たちの世界はいろいろあって恵まれているからあのころとは違うと思ってしまうんだけど、戦争より前にもいろんな楽しいものや今と同じものが存在していて、それを失ったり手に入れられなくなったりしていたということをこの漫画シリーズを読んで改めて、初めて実感してしまった。

10巻では漫画界も盛り上がって、たくさんの雑誌が創刊されて新しい漫画がどんどん出てくる様子も描かれる。トキワ荘メンバーも活躍するし、劇画が主流になっていく中で手塚治虫が苦悩したり。

上田としこ先生は2008年に90歳で亡くなって、わたしもその時のことは覚えている。
ネットのニュース記事を見て、「エッ!……ああ……」と言葉にならなかったっけ。
10巻ラストはすっと眠るように亡くなるまでが描かれている。まさに伝記のようなシリーズになりました。

作者・村上もとか先生が3か所ほど出てくるところも面白いですね。
同じ時代を生きているというのはこういうことかと。自分の人生とも重なってくる。
私自身も、そろそろ私が生まれて〇歳だったあの頃の話か~、そのころこんな感じだったんだな~と思うとまた見えるものが変わってくる。

全編にわたって、東京の昔の街並みが描かれているのも見どころ。
知ってるあの場所の、あのころからある建物や変わってしまった街並みを見るのも楽しい。