【漫画の感想】明日も未解決(桑田乃梨子)

都度都度言ってるけど私の、ずっと、すごく好きな漫画家さんであるところの桑田乃梨子さんの漫画。改めて読み返したので。

明日も未解決

良かった。

まあファンだからってのもあると思うけど……

ファンとしてもうれしいんですよね。最初好きになったころの名作

「おそろしくて言えない」

……あたりの、モブモブしさというか(いや、やっぱり当時ほどでは無いんだけど、でも)
教室のにぎやかさというか何と言うか。私の好きな学園生活のあの雰囲気が感じられてすごく懐かしくて、良かった。

私は桑田乃梨子さんの描く、教室の中の人たちがそれぞれなんとなく「同じ空間にいる仲間ではある」というぐらいの緩いつながりと適度な距離感で存在していて、部活動や親しい友達だけの塊もそこでいくつか存在して、一人がいろんな仲間に所属してって言うのが感じ取れる学生生活ってのが好きなわけですけど。
派閥があるわけでも、「誰の本当の友達なのか?」っていうドロドロしたいさかいがあるわけでもない、理想だけど実は現実にはあり得ないかもしれない世界。

自分の学生自体を思い出して懐かしがっているのじゃなくて、たぶんこの桑田ワールド(たまに煽り文句とかに書いてある気が……)の一員になりきって、この25年以上桑田乃梨子さんの漫画を読んできたからこその懐かしさというか。そういうものを感じているんだと思うのですよ。わたしもモブの一員だったと。


久しぶりに漫画の感想とか描いてるとほんと自分のことばっかり書いちゃう……
アカン。


「明日も未解決」は、まず冒頭から吉元の親友・原田が死んでしまう。
原田は「なにか、吉元にいおうとおもってたこと」があるのが心残りになり、葬式に来た吉元の後ろに憑いてしまったようだ。吉元にはそんな原田の声が聞こえるようになるが、姿は見えない。そして原田はどうしても「言いたかったことがなにか」おもいだせない。

なんとか心残りを遂げさせて、原田に成仏してもらおうと、霊感のある嵐柴や他のクラスメートたちに見守られながら、今日も・明日も未解決な難題に立ち向かうのだった……

というお話。

まあクワタンのお話だから暗くも湿っぽくもならないよね。すっとその状況を受け止める主人公・吉元くんと、焦るでもなく飄々と憑き続ける原田くん。死の悲しみと、霊になって吉元についてることに戸惑いながらも見守るクラスメートたち。

いつも「すごいなあ」と思うのは、ほんとに突飛なところのないキャラクターデザインで、いわば「いつものクワタンのキャラ」だとは思うんだけど、でもほかの作品の誰とも同じではないキャラクターがまた生まれているということ。
まさにクラスメート。同じ地域に育って、同じ年齢で、同じ性別でもひとりひとりが違うって言うその些細な違いが、無理なく伝わってくる感じが。すごいことだと……思うのです……

毎回「今日も、吉元に言いたいことは思い出せなかったなあ」という感じで原田は成仏せずに終わるんだけど、少しずつ関係や状況は変化していく。新しいつながりも深まっていき、明日がなくなったもの、明日があるものの隔たりが、変えたくなくても徐々に生まれてくる予感がある。


短編が多いということもあるけど、桑田乃梨子さんの漫画はたぶん私が読んだまんがの中で、一番「終わりを見届けた」漫画だし、もうその終わり方は信頼している。今回の終わりも本当によかった。一番最初に登場人物が死んでいて、もう大きなお別れがあったというのに、それからの出来事しか知らない読者である私がいつの間にかこのラストに胸を打たれて、じんわりと静かな、声を上げない涙を流してしまう。

そういえば、桑田漫画のラストで「この人たちの関係はこのあともこんな感じで続くんだろう」という終わり方のものは無い気がする。いつでもなにか大きな変化が、ずっと今のままではいられない現実をしっかり伝えてくる。ただし、それぞれがそれぞれの未来を得ていく終わりは、決して暗いものではない。

それは学校からの「卒業」にもにて、それで晴れ晴れとした悲しみを感じてしまうのかもしれない。