これはぼくの嫉妬なのかなあ?



 台風も過ぎ去った初秋の話です。
ウサギはぴょんぴょんと跳ねて、ネコの長老に会いに行くところです。
ネコの長老は静かで、何でも教えてくれるおじいさんです。
長いひげが、体の毛に混じって なんだか不思議な風貌です。

 ウサギは長老の家のドアを荒々しくあけました。
「長老。お話してもいいですか」
ネコの長老は振り向いて、ウサギを家の中へ招き入れました。
「おいで、おいで。今日は何が聞きたかったのかな」

 ウサギは、なにか憤慨しているようすです。
「あのね、長老。ぼく、むかむかしているんだ」
「言ってごらん。さぁ、座って、このクローバーのお茶をのみながら」

 ウサギはどかっと音を立てていすに座ると、クローバーのお茶に目もくれずにまくしたてました。
「リスのやつは変わってしまったんだよ。すっかりえらそうに、ヒゲをなでるしぐさも高飛車でさ」
長老は静かな口調のまま、ウサギの話を聞きます。
「ほほう、リスは高飛車になったのか」
「あいつ、こないだパパがほめられたからってさ、調子に乗ってるんだ。
たまに、こういう風に調子に乗って変わってしまうやつを見るよ」
「リスのパパがほめられたのかい?」

「そうだよ。リスのパパが今年一番のたくわえをして、立派な巣穴も作ったんだ。賞状をもらってたよ。
その次の日リスにあったら、ぼくを見下して、『ひさしぶり、元気かい』なんてバカにするんだ」
長老は、興奮するウサギが振り上げる手の動きを目で追いながら、頬杖をつきました。
「それは、普通の挨拶じゃないかい」
「ちがうよ! ぼくには、リスのやつがどういう気持ちでぼくを見ているか、すぐにわかるんだ。
パパのやったことで、みんなよりえらくなった気持ちがしているんだろうね」

 長老は頬杖をやめて、いすの背もたれによりかかりました。
「では、リスが二年前に、新しい栗の木を見つけたときはさぞかしえらそうになっただろうね」
「え? リスがなにを見つけたですって?」
「ほら、キミも知ってるあの大きな栗の木だよ。 今日のクッキーにもその栗をつかっている。
あの木を見つけたときは森では話題になって、リスは勲章をもらったはずだよ」
ウサギは考え込むようなしぐさをしました。
「それは、知らなかった。勲章をもらうほどすごいことしてたなんて、リスのやつはぼくにいいませんでした」
「リスは控えめな子だから、勲章は巣穴の中でもらって、式典を辞退したんだよ。
どうだい、二年前あたりにリスはえらそうになってたかい?」

 ウサギは目をとじて、長い間黙っていました。
ネコの長老は冷えてしまったお茶を片付けて、新しいお茶をカップにいれました。

「ぼくが、リスにいいことがあったと知った日から、リスの周りはなにか華やかに、鮮やかにみえたんだ。
リスの態度が変わってしまったとおもって、ぼくとリスの間に距離を感じたのも同じときだ。
でもいま、勲章をもらったと聞いても、距離は広がっていかないんだ」

「これは、ぼくの嫉妬なのかなあ?」

「知らなきゃしない程度の嫉妬なら、栗でも食べて忘れてしまえるよ」
長老がお茶のカップをウサギのほうへ押しやりました。
「とくべつな葉っぱを使ったおいしいお茶だよ」
「なんだかお茶がとくべつにおいしいような気がしてきました」

 台風も過ぎ去った初秋の話です。


end

シリーズ 変わらなくちゃいけないのかなぁ?(2002/4/7) 全部じゃなきゃいけないのかなぁ?(2002/5/13) こちらの二篇もどうぞ。

(c)AchiFujimura 2013/9/17




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