アプリアップデートで神対応



 人物の写真を登録しておけば、スマートフォンのカメラごしに「いつでもそこにいる」感じを味わえる。
つまり、このアプリは人物と写真の合成が簡単に・リアルタイムに出来るというわけだ。
単純な仕組みだが、順調にユーザーは増えていた。

 アプリメーカーが想定した基本的な使い方は、自分や家族の写真登録だ。
離れていても一緒にいる感覚になるという触れ込みだったが、
フタをあけてみればそのような使い方をしている人はあまり多くなかった。
生きている人間とはメールもやり取りできるし、動画つき通話だってなんだってあるじゃないか。
……そう、生きている人間なら。

 彼も、死んだ恋人の写真をせっせとアプリの管理サーバにアップロードしていた。
最近はこうやって、死んだ人間がいまも生きてそばにいるような写真を撮るのが主流の利用方法だ。
写真をネットに公開したりする人はほとんどおらず、個人で楽しんでいるためあまり知られた使い方ではなかったが、
考えることはみな同じのようで、そういった利用は増えていた。

 このアプリをインストールしてから、旅をすることが楽しくなった。
いい景色を背景に、彼女の写真をとってやりたい。
恋人が死んでしまったときは、神もなにもありゃしねえとヤケになっていたが、このアプリの登場で元気を取り戻していた。
ランダムに選ばれた写真が合成されれば、自分ででっち上げた感じも薄まる。
より多くの写真を登録しておくと、忘れていた頃に出現するポーズや表情もある。
彼はお金を支払って、写真の登録枚数を増やすサービスに加入していた。

 すっかり生活とアプリが切り離せなくなった頃、トラブルは起こった。
サーバが応答しなくなったのだ。
撮影しても、撮影しても、景色が写るばかり。
もう、彼にはカメラを通さずとも景色の中に恋人が視えるほどになっていたのに、
アプリの不具合とともにその記憶もリセットされたかのようだった。
彼女がいない! 彼女がいない世界!

 アプリは数日応答しないままだった。
彼も憔悴した表情で、ベッドの端っこに充電したままでスマートフォンを放りっぱなしにしていたが、
「アプリのアップデート サーバにつながらない不具合を修正しました。新機能追加。お詫びを送信しました」
という通知を見てさっそくアップデートボタンを押した。

「お詫びが届いています」
というボタンがアプリのホーム画面より前に表示された。何気なくタップしてお詫びを開いてみた。

 恋人の写真が8枚ほど、現れては消えて、キラキラ輝いていた。
「さびしかったでしょ。ひとりにしてゴメンネ! 1000Pゲットだよ!」
漫画の噴出しのようなものが彼女の口元から飛び出して、そこに台詞のような文字が入ってる。


 彼は課金を停止し、そっと画面を閉じ、アプリを消した。
「はいはい神対応神対応! こんなの彼女じゃねえ!」


end

(c)AchiFujimura 2016/7/28



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死者にメールを送ることが出来るサービス「tengoku.hvn」を利用する話
アカウント@tengoku.hvn

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